フォルテピアノって?
ひとことで言うと、現代のピアノのご先祖様です。
フォルテって言うからには、強い音のピアノなのかな?と思われましたか?
いいえ。
華奢なボディが紡ぎ出す、ピアノ(弱音)の美しさこそが売りの、ピアノです。
発明された当時の名称、*ピアノ・エ・フォルテ(弱音と強音)が略されて、
→ピアノフォルテ
→フォルテピアノ
と変化し、次第に呼び名として定着しました。
いちどは完全に歴史から姿を消したフォルテピアノでしたが、欧米のアートシーンで20世紀初頭に起こったリバイバル運動により、人気が再燃しました。
61鍵の鍵盤に触れれば、その浅くて軽いタッチに驚かない現代人はいないでしょう。
現代ピアノにくらべ、ハンマーの大きさ・重さは10分の1から8分の1。
鹿革がキュッと巻かれた小指の先ほどのちいさなハンマーが、低音から高音まで並行に張られた真鍮の弦を鳴らせば、その繊細な振動に、躍動感に、指先が喜んでいるのを感じます。
宮廷の楽器チェンバロの絢爛豪華な音質と外見に対し、新しい時代を予見するような、木目を活かしたシンプルな外見。
そして革のハンマーで打つシステムが可能にした、際限なく拡がる弱音の可能性。そして、敏捷で切れ味良い発音は、駆け抜けるような表現を可能にします。
61鍵、ファからファの5オクターブから始まった第一世代フォルテピアノは、まるでいまの携帯電話やパソコンのように数年単位で活発なモデルチェンジを重ね、100年以上かけて現在の88鍵まで拡大されました。
大きくなったのは音域だけではなく、音質、音量も時代のニーズに合わせて多様に変化し続けました。
馬車がいちばん速い乗り物だった頃。
キャンドルに照らされたサロンで、人々のため息がどよめきとなって、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトといったフォルテピアニストを取り囲んでいた・・・
そんな時代に活躍していたフォルテピアノ。
フォルテピアノの見せてくれる幻想的な世界にとりつかれ、生活をともにすることを決めたわたし。
あまたのフォルテピアノと出会って、今まで見えていたクラシックの世界に、ぐんぐん広がりと奥行きが感じられて、もっともっと、音の世界に遊び、冒険し、実験したくなっています。
そのことが嬉しくて、なによりも、ますます音楽が好きになっている毎日です。
あなたもぜひ、この素敵な愉しみに出会ってください。
*グラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ(弱音も強音も出せるチェンバロ)が、発明当時の正式名称です。バルトロメオ・クリストフォリ1655-1731は、弦をはじくチェンバロの仕組みを変化させ、弦をハンマーで打つという画期的な発明で、この新しい時代の鍵盤楽器を生み出すことに成功しました。