「レコード芸術」 2013年8月号
濱田 滋郎
那須田 務
石田 善之


 2013年5月29日にリリースされたソロCD 「Mozart Speaks Vol.2」 が8月号の 「新譜月評」の【器楽曲部門】 で
 【準特選盤】 に選ばれました。
 なお、執筆者の敬称などは省略させていただきます。ご了承下さい。   

  レコード芸術 2013年8月号 Mozart Speaks Vol.2 準特選盤の記事      
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
ソナタ 第1番 ハ長調 KV279
1:  Allegro
2:  Andante
3:  Allegretto
ソナタ 第5番 ト長調 KV283
4:  Allegro
5:  Andante
6:  Presto
ソナタ 第18番 ニ長調 KV576
  7:  Allegro
  8:  Andante
  9:  Allegretto

ヨーゼフ・ゲリネク
 10: モーツァルト 歌劇 「魔笛」 より “恋人か女房か” の主題による
6つの変奏曲
 



《推薦》 濱田 滋郎
 以前にもフォルテピアノを操って聴くべきアルバムを発表していた平井千絵によるモーツァルト中心の1枚。
モーツァルトの 《ソナタ》 ハ長調K279、ト長調K283、ニ長調K576と、もう1曲はモーツァルトの同時代人ヨゼフ・イェリーネク(1758〜1825)による、 《魔笛》 の主題による変奏曲を収めている。

 使用楽器は1790年頃のアントン・ヴァルターによる、ユトレヒトのタウンマン製のレプリカ(2004年)で、オリジナルさながらの音色を発している。

 平井千絵の演奏ぶりは思い切りのよいもので、しばしばとてもダイナミック、気迫に富んだ生命力豊かな運びが、テンペラメンタルな魅力をかもし出す。今月並んで出たベズイデンホウトとはまた違った流儀で、フォルテピアノならではの世界を開いて見せる、まことに捨てがたい奏者だと言えよう。

 モーツァルトのソナタ中では演奏の難しいK576も、対位法的な流れへの対応を含め、達意に弾きこなしている。緩徐楽章の朴訥な味わいも、モダン・ピアノにはない妙味にほかならない。

 イェリーネクの変奏曲は、ベートーヴェンもチェロのための変奏曲に用いたお馴染みの旋律を用いた楽しいもので、この曲に現れた、オペラの登場人物のようにヤンチャな語り口は 「モダン・ピアノで弾くと、一様に美しく、お行儀よく覆われてしまう」 と平井千絵は言う (ブックレット内のインタヴューより)。 まことにその通りであろう。


《準推薦》 那須田 務
 平井千絵によるモーツァルトのピアノ作品集。
3つのソナタに同時代人のイェリーネクによる 「《魔笛》 の主題による6つの変奏曲」 を組み合わせている。

 使用楽器はヴズイデンホウトのヴァルターよりも古い、1790年頃製のレプリカ。響きや反応の早さなど、こちらの方がモーツァルトの音楽により合っている。

 第1番のソナタの第1楽章は細かく動く右手のパッセージの間に和音が置かれるが、それが叩きつけるように奏でられ、アグレッシヴな情念が強調される。緩徐楽章の装飾音も個性的。終楽章も第1楽章と同じ。フレーズの終わりの処理がいささか乱暴。意図的なのだろうが、聴き手の好悪が分かれるかもしれない。
 第5番の第1楽章の主題も同様で強弱、とりわけフォルテが強調される。第2楽章も古楽の演奏習慣に則った不均等な2つの音の繋がりが田舎風な素朴さを、そして即興的なパッセージが曲の諧謔性を強めると同時に、各パッセージの性格が明快に弾き分けられ、生き生きとした音楽的対話を聴かせる。終楽章も猛烈な速さで迫力満点だ。瞬発力に富んだ鋭い打鍵とパッセージの転がり方はウィーン・アクションならでは。
 第17番は対話の内容はより複雑に多様になり、平井もエネルギー全開。第2楽章でモデレーターを楽章を通して用いているが、これが歴史的な用法。
 イェリーネクの 《魔笛》 のパパゲーノとパミーナの二重唱による変奏曲も諧謔的な性格が良く出ていて楽しい。

 いずれも平井の名人芸と機知とフモールが発揮されている。


《録音評》 石田 善之
 演奏の表情も楽器の持つ音色もたいへんよく伝わる。
セッション収録で、ノイズ感もなく演奏に集中できるまとまりのよさがある。
充分な空間のなかに明瞭で張りのある音色を聴かせる。
距離的には少々近い印象で音像は少々大きめになるようだが音が萎縮することなくのびやかに広がる様子もよく伝わる。
十分なホール・トーンも感じさせ、生っぽさにつながる解像力である。 〈90〉


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