「レコード芸術」 2012年7月号
濱田 滋郎
那須田 務
神崎 一雄


 2012年5月9日にリリースされたソロCD 「Mozart Speaks Vol.1」 が7月号の 「新譜月評」の【器楽曲部門】 で
 【特選盤】 に選ばれました。
 なお、執筆者の敬称などは省略させていただきます。ご了承下さい。   

         
  ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
 
ソナタ 第10番 ハ長調 KV330
1:  Allegro moderato
2:  Andante cantabile
3:  Allegretto
  ソナタ 第11番 イ長調 KV331 「トルコ行進曲付き」 
    4:  Andante grazioso - Var.1-Var.2-Var.3-Var.4
   -Var.5 Adagio-Var.6 Allegro
    5:  Menuetto-Trio-Menuetto Da Capo
    6:  Alla Turca : Allegrino - Coda
  幻想曲 と ソナタ 第14番 ハ短調  KV475/457 
    幻想曲 ハ短調 KV475
      7:  Adagio - Allegro - Andantino - Píu Allegro - Primo Tempo
    ソナタ 第14番 ハ短調 KV457
      8:  Molto Allegro
      9:  Adagio
      10:  Allegro assai
           



《推薦》 濱田 滋郎
 これまでもモーツァルトの演奏を披露してきたハーグ王立音楽院、スタンリー・ホッホランド門下のフォルテピアノ奏者、平井千絵だが、
当盤は今後何年かかけて完成することになるモーツァルト・ソナタ(ないし鍵盤曲)全集の第一歩であるという。
 タイトルを “Mozart Speaka Vol.1” としたあたりにも、何を主眼とするシリーズなのかが解る気がする。
使用楽器は、オランダのヘラート・タウンマンが2004年に製作した、アントン・ヴァルター1790年頃製のモデルによるレプリカ。
ヴァルターのモデルとしては最も早い時期のもので、90年と言えばモーツァルトはまだ生きていた。
このフォルテピアノを操って、平井千絵は堂に入ったモーツァルトを聴かせる。

 収録順に第10番ハ長調、第11番イ長調、《幻想曲》とソナタ第14番ハ短調と名曲揃いだが、いずれの曲も彼女は端麗にきっちりと弾き上げながら、随所にフォルテピアノならではのニュアンスをも散りばめる。
演奏として最も興味深いのはおそらくイ長調《トルコ行進曲付き》のソナタで、第1楽章・第2楽章はリピートを丹念に行いながら的確に弾き上げていくが、第3楽章〈トルコ行進曲〉に至ると様子が一変する。
イ短調の主題旋律はやや耳慣れないイントネーションおよび間(ま)をもって奏され、続くイ長調の部分では、自在で即興的な音符の変更までが現われる。
モーツァルトがひとつの「戯れ」として導入した楽章には遊び心をもって接する・・・・・ 一理あることだ。


《推薦》 那須田 務
 平井千絵のモーツァルトのピアノ作品全集がスタートした。  これはその1枚目。
ハ長調K330の第1楽章から、「モーツァルト・スピークス」というシリーズのタイトルそのままの演奏。 そう、フォルテピアノによるモーツァルトは多彩なアーティキュレーションを駆使して音楽を語らせなければならないし、そこがモダンのピアノと違うところだ。 とはいえ、平井は歌謡的な箇所も魅力的で、総じて歌と語りのバランスが良く、装飾音にも才気煥発な弾き手の人柄を感じさせる。

 ライナー・ノーツの楽器解説によれば、タウンマンによるヴァルター(2004年製)は、ニュルンベルクのゲルマン国立博物館所蔵(1790年頃)の楽器のモデルだが、かなりオリジナルに忠実なようで、少し後年のものに比べて (たとえば今月のベズイデンホウトの「ヴァルター&息子」)、アクションはさらに軽くて繊細だし、抜けのよいクリアな音色がすばらしい。それももちろんそれを活かし切る弾き手の見識と力量があってのこと。第2楽章の独創的な語り口が楽しい。
 《トルコ行進曲付きソナタ》の第1、2楽章の主題のちょっとしたアゴーギクや音型の性格的な造形に独特な趣があり、〈トルコ行進曲〉は徐々に即興的なパッセージを加え、時として大胆なほど。
 《幻想曲》ハ短調では前半を抑え、アレグロではじけ、カデンツァで大きな動きを見せる。それは後半のピウ・アレグロも同様。見せ場の設定が明快で音楽をドラマティックに聴かせるのが上手い。


《録音評》 神崎 一雄
 いかにも “木” の枠組みを持つ鍵盤楽器、フォルテピアノらしい音の肌合いと響きとを終始聴かせるサウンドが実にチャーミング。
残響を過剰に取り込まず、フォルテピアノらしい音の特長と響きとを良く捉えた録音になっている。
わりと演奏の近くで聴く趣きの収録でありながら、自然な佇まいとリアリティとを十全に収めて素敵である。
2011年10月の収録。   (93)


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