「ショパン」 2009年12月号
菅野 浩和


      2009年10月11日に 東京オペラシティ リサイタルホール で開催された
             「ウイーンのピアノに魅せられた作曲家達 Vol.5」
             【エレジーと夜の歌】 −ショパン時代のエラールピアノで
          平井千絵 フォルテピアノ リサイタル Vol.5 の演奏会評です。
 なお、執筆者の敬称などは省略させていただきます。ご了承下さい。

        【演奏曲目】 
ショパン :
*プレリュード 作品45 嬰ハ短調
*子守歌 作品57 変ニ長調
*ノクターン 作品27−2 変ニ長調
*舟歌 作品60 嬰ヘ長調
*マズルカ 作品6−1 嬰ヘ短調
*幻想ポロネーズ 作品61 変イ長調
ミハイル・イヴァーノヴィチ・グリンカ :
*「祖国へのあいさつ」より 1.あるマズルカの思い出 2.舟歌
*ノクターン “別れ” ヘ短調
*ワルツ・ファンタジー ロ短調
リスト :
*プロイセンのルイ・フェルディナント公のモティーフによる悲歌
*3つの演奏会用練習曲より 「軽快」 「ため息」

 

  限りない味わいがまっすぐに
  平井千絵
  フォルテピアノ リサイタル

 世界の、古楽の拠点都市のひとつ、デン・ハーグに生活と活動の本拠を置く平井千絵が、渡り鳥のように時々日本に飛んできて、いわば本場ものの古楽系ピアノを奏でてくれる。

 実に待望の、うれしい機会である。 しかも連続する毎回を、ユニークな選曲によって特色づけている、その5回目。

 今回は、ピアノ界のとびきりの大家、リストとショパン、それに時代的にはわずか先がけるが、ピアノ音楽家としてはまったく知られていないグリンカ、エレジーとノクテュルヌの系列にくくれる諸作品を連ねてのプログラム、対応楽器はこれら、3人の作曲家の活動時代に当たる1845年のエラール・ピアノとのこと。

 日頃、表現力が強調されかねないリストや、鍵盤上のベル・カント効果に傾きかねないショパンを、作曲者と使用された楽器の対応から醸し出される、まさに必然的な響音の連鎖によって弾き上げてゆくのを聴くと、誇張や歪曲のないリストやショパンの、ピアノ音楽の世界の限りない味わいがまっすぐに伝えられてくる想いに心は満たされる。

 一方、今までまったく知る機会を得なかったグリンカに、このような魅力的なピアノ音楽の領域があったとは!
それを知らせてもらったことの意味の大きさも、大収穫だった。 もっとも、この日の使用楽器への対応の上で、もう一息と想わせる折もあったにしても、この貴重な、ユニークなリサイタルの価値を讃える気持ちを、いささかも割り引くものではない。

(菅野 浩和)      

            (10月11日 東京オペラシティ リサイタルホール)

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