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「レコード芸術」 2006年12月号
高橋 昭
平野 昭
三井 啓


 2006年10月25日にリリースされたCD 「メンデルスゾーン : チェロとピアノのための作品全集」 が12月号で
 【特選盤】 に 選ばれました。
 なお、執筆者の敬称などは省略させていただきます。ご了承下さい。


 @ チェロ・ソナタ 第1番 変ロ長調 O p.45
 A 協奏的変奏曲 ニ長調 O p.17
 B チェロ・ソナタ 第2番 ニ長調 O p.58
 C アルバムブラット ロ短調
 D 無言歌 ニ長調 O p.109


《推薦》 高橋 昭
 メンデルスゾーンはチェロとピアノのための作品をいくつか作曲したが、それらは彼の室内楽の中で目立った存在ではない。 しかし、ひとつひとつは彼でなければ得られない魅力を持っている。

 このディスクは、チェロのための全作品が収録されていること、またピリオド楽器で演奏されていること、また演奏自体が良く考え抜かれ、強い説得力を持っている点で注目される。

 フォルテピアノの使用による利点は、まずチェロとのバランスが理想的であることで、現代のチェロと現代のピアノによる演奏ではフォルテでピアノがチェロを圧倒してしまうため、二重奏の醍醐味が得られないが、この収録では前述の不満が全く感じられない。

 平井の演奏はニュアンスに富んでおり、チェロの表情の変化に対してこまやかに反応するので、メンデルスゾーンの繊細な感情の動きがハッキリと浮かび上がってくる。鈴木のチェロも好演。しなやかなボウイングで細かな動きを明確に生かしているので、演奏が単調にならない。

 変ロ長調ソナタ作品45の第2楽章ではフォルテピアノの軽やかな響がチェロの響によくマッチしているし、楽器自体が音楽の落ち着いた、しかも伸びやかな感情を十分に弾きだしている。第3楽章ではチェロの響がモダン楽器ほど重くなく、フォルテピアノの簡素な響とよくマッチしている。
 
 ニ短調ソナタ作品58でも第2楽章のアルペッジョを弾くフォルテピアノの響が美しく、暖かみがあって、威圧感ががなく、チェロも雄弁に演奏しているが決して威圧感がない。要するにメンデルスゾーンの音楽が目指すアンティームな感情は十分に表現されている。

《推薦》 平野 昭
 鈴木秀美が すばらしいフォルテピアノ奏者の平井千絵と組んでメンデルスゾーンの2曲のチェロ・ソナタと 《協奏的変奏曲》(作品17) をはじめとするチェロ作品全5曲を収録し、好演を聞かせる。鈴木のチェロ・ソナタといえば、早逝した小島芳子と組んだベートーヴェンの作品の名演奏が思い出されるが、今回の若きパートナーが小島の高弟の平井千絵ということで両者のアンサンブルの巧さに安心してメンデルスゾーンの音楽を楽しめる。

 チェロ・ソナタ作品としてはどうしてもベートーヴェンなどと比較してしまいがちであるが、2曲とも25分ほどの充実した内容を持ち、しかも3楽章構成の第1番と 4楽章構成の第2番では全く異なる様式で書かれていることを明確に示した演奏だ。

 フォルテピアノであることはピアニストが楽器から最大限の表情、音量を引き出して対峙してもチェロの音を覆い隠さないというモダン・ピアノには望めない大きな利点、特質がある。 しかも音域によっては色のニュアンスさえ変化し、アンサンブルに豊かな表情を加えている。

 第1番の第1楽章は第2,第3楽章を合わせたぐらいの規模をもっているが、非常に律動感に富み、しかもピアニスティックな表情を思い切り盛り込んだ豊かな内容をもっており、鈴木のチェロと平井のピアノが真正面から全力投球でぶつかり合いながら大きく高揚してゆく。

 このアンサンブルのせめぎあいがすばらしい。
チェロ・ソナタということでつい耳はチェロに傾くが、ここでの平井のピアノはこちらを聴いてという強い主張に溢れており、それがメンデルスゾーンの意図した新しい二重奏であるというように得心させられてしまう。スケルツァンド風な趣を感じさせる緩徐楽章もおもしろいし、第1楽章主題を変形させた ロンド主題による終楽章も簡潔ながらメンデルスゾーン特有の叙情性さえたたえて美しくまとめられている。

 《協奏的変奏曲》は主題と短い8つの変奏からなるが、アマチュア・チェリストなら誰もが取り組みたいような親しみやすさに満ちている。ところが実にテクニカルな作品であるし、特にピアノはかなり技巧的だ。 一瞬の翳りをみせる第7変奏のミノーレはアパッショナータ・エ・カプリツィオーソとでも呼びたいような盛り上がりをみせる。そしてコーダ付きの第8変奏では主題を回帰させ、この9分ほどの小品をスケールの大きなフィナーレとして見事に締めくくっている。

第2ソナタにおけるピアノはオーケストラにも相当するような多彩な表現と音楽を推進していく律動感、躍動感に充ち満ちており、これに対峙して朗々とチェロで歌う鈴木の演奏からは、ひょっとするとこれはチェロ協奏曲のピアノ版ではないかと思わせるような表情が窺える。

《録音評》 三井 啓
 2006年7月、オランダのファルテルモントのオンデア・デ・リンデンで録音。 チェロが中央、その右寄りにフォルテピアノの音像が定位、両楽器とも適度な距離感をおいて左右に広がる。
 チェロのつややかでしっとりした、やわらかな音色が美しく、フォルテピアノもつややかでなめらかな1音1音がよく粒立ち、豊かな響きをともなって溶け合いのよい美しい音色を展開。 〈93〉